ジョン・レームクールは、音楽業界で働きたい、レコードに自分の顔がプリントされるようなアーティストになりたい、と考えていた。80年代、シアトルの楽器店で働き、そこで自作のカスタムサウンドを搭載したシンセサイザーを販売した。
店が午後9時に閉まると、店舗内の「MIDI City」と呼ばれていた一角へ向かった。そこにはアップルのMacintosh 512Kとかつて25,000ドルほどで売られていたカーツウェルのK250キーボードがあった。ほかにも、AKAI、CASIO、KORGのシンセサイザーが店内に並んでいた。そこでレームクールは午前2時ごろまで自分の音楽制作に没頭した。それから家に帰って眠り、また店に戻って午後のシフトをこなすのである。
新しいキーボードが発売されるたびに、レームクールは購入特典として自作のサウンドを付け足した。レームクールが販売員として働いた最後の年、その店ではグランドピアノよりも電子楽器の売上のほうが多かった。
ある日、店内でベン・ドウリングに出会った。KORGの製品担当者で、各店舗を訪問してKORGの楽器が正しく設定されているかを確認するのが主な仕事だったのだが、時には顧客相手に情報のためのクリニックを開催することもあった。
ドウリングは情報クリニックで忙しく、西海岸全域を動き回る必要があったため、レームクールを製品担当者として採用するよう会社に働きかけ、面接する手はずを整えた。
そして見事合格となり、同社で最も若い製品担当者として就職した。
彼が働いていた楽器店のオーナーが同社に電話をかけ、スター従業員を引き抜くのはやめろ、就職をなかったことにしろと訴えたそうだ。
KORGでサウンドデザインの道に足を踏み入れて以来、レームクールはいくつかの画期的なマシンを用いてきた。M1、O1/W、Wavestationなどだ。そしてもちろん、Tritonもそこに含まれる。
ある楽曲のなかで自分がつくったサウンドが使われていることに初めて気づいたとき、レームクールは衝撃を受けたそうだ。KORGのM1キーボードのためにつくった「Depth Charges」という音がそれだった。水中で爆発する対潜水艦ミサイルを彷彿とさせる、ディレイとリバーブを駆使した「水中音」だ。いわば「Tribe」の遠い親戚にあたる。
ジャネット・ジャクソンの『Rhythm Nation 1814』のオープニング曲「Interlude: Pledge」の冒頭数秒で「Depth Charges」が聞こえてくる。このダンスアルバムは、いまでも彼のいちばんのお気に入りだ。
「そこに使われているのに気づいたとき」と彼は回想する。「ヤバい、もういつ死んでもいい、と思いました」
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