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  • 花田  確かにテンポが良いということはお客さんからも言われることがあるのですが、そのあたりは落語や漫才の影響が大きいかもしれませんね。あと、漫画で生きる台詞と、小説で生きる台詞と、アニメで生きる台詞はそれぞれ別だと思っているので、例えば小説や漫画原作の台詞を、同じ内容のまま音で聞いて分かりやすくするために、〝てにをは〟を入れ替えたりという作業は常にやっているので、それがテンポに影響しているのかもしれません。シナリオライターって文字を書く仕事なので、どうしても読んでいて面白いシナリオを目指したくなるんですけど、作品の完成形は文字じゃなくて音で表現されるわけです。だから、感覚を近付けておかなきゃいけないのは文字メディアではなく、映像メディアの方なんじゃないかと思っていて。読書は欠いても、映像は常に浴びるようにしています。

  • ──実は花田さんの台詞使いを聴いていて、例えば誰かがブツブツ言っているところに「言ってるし」みたいなツッコミを入れる感じがすごく活きていると感じて、これは漫才のテンポだなと思ったのですが。

    花田  特に意識してやっているということは全然ないのですが、でも言われてみると、そうかもしれません。ただ、今の例で言うと、分かりやすくしようと意識してあえてツッコミ台詞を書くということはあると思います。僕は無言の表情だけで感情を伝えるとか、二重三重の意味を持たせる謎な台詞とかをお客さんが理解してくれるかということに関して懐疑的なんです。特に今は画面なんか一切観ずに、スマホを見ながら音声だけでアニメを観ている視聴者が少なくない。TVアニメの脚本を書く時は、そうやって観ている人にもある程度分かるようにした方がいいのでは、と思っています。特に『ラブライブ!』(2013-14)みたいに視聴者の数が多い作品は、意図的に台詞で全部説明したり、くどいくらいにキャラクター全員を喋らせたり、という書き方をあえてしてますね。ドラマの『渡る世間は鬼ばかり』1990-2011)ってどの週のどの場面から見ても、今何が起きていて、何の話題をしているか、大体分かるように会話で全部説明してくれるじゃないですか。『ラブライブ!』シリーズは常にあのラインを意識して書いています。

     もちろん、視聴者の中にはちゃんと映像を観て意図を汲み取っておられるお客さんもいますが、これからのTVアニメは、そうじゃないお客さんにも全部分かるようにしておかなければならない時代に入っていくだろうなと思っています。

  • ──でもやっぱり実際にどういう言葉が使われているか観察しないと書けないような台詞もありますよね。例えば『宇宙よりも遠い場所』(2018)でアイドルの少女が「軽く死ねます」と言いますけど、ああいう言い方は実際に自分も大学の学生が使っているのを聞いて、今の若い女性はこういう言い方をするのかと思ったことがあったのですが。

    花田  どこからあの台詞を思いついたのかは正確に覚えていないのですが、感覚的に出てきたものだったと思います。以前、同じシナリオライターの人に「花田さんが狙って書いてきた台詞は全くいいとは思わないけど、無意識に書いてきた台詞はいいと思えるものが結構ある」と言われたことがありました。自分でも書いていてその自覚はあったので、以降、狙って台詞を考えたり、いい言葉をメモしておいたりすることはやめました。日常的になるべく言葉を浴びるようにだけしておいて、書く時は、その場その場で浮かぶものを書くようにしています。

  • 花田  結局、教えてもらったいわゆる正しいと言われるやり方にこだわっていてもそれだけじゃダメだなというのは、仕事をやっていると感じることがあります。小説だってあかほりさんの小説は、小説ではない、なんてよく怒られていましたし、今の〝なろう系〟だって、いわゆる正しい小説からは大きく外れているでしょう。シナリオも同じで、それに目くじら立てて、自分は正しい方法を貫くんだ、これはドラマとして間違ってるって言ってても仕事がなくなるだけなので、〝へえ。今、こんなやり方が流行ってるんだ、面白い時代になったね〟くらいの感覚で、興味本位で一回全部受け入れてしまう方が柔軟性というか臨機応変な対応はできますよね。

     とはいえ自分の感覚を全部合わせられるかというとさすがに無理なので、単純に自分が面白いと思ったらやるし、つまらないと思ったらやらないという線引きはしています。これは後輩にもよく言いますが、自分が面白く感じていないものを書くことほど、ストレスを感じる作業ってないと思うんです。そういう仕事を続けていると、自分の感受性も狂っていくので、たとえ仕事がなくても、自分がどうしても面白いと感じられない原作や企画はどんなに大きなタイトルでも正しい方法で作られたものでも、引き受けない方がいいと思いますね。

  • ──だから、かつてはキャラクターも一人一人ちゃんとエピソードを作って描いていましたけど、今は設定で見せることが多いのではないですか。

    花田  そうなんです。だからそこに抵抗があるというのもすごく分かります。『プリキュア』シリーズみたいな朝の1年物で、ちゃんとキャラクターを描いているのを観ると、やっぱりこれが本来正しい姿だよなあと思いますから。

  • ──かつては、例えば全26話の場合、前半の13本くらいで登場人物を見せて、後半の13本で大きく物語を動かすという構成が多かったですが、今は人物紹介的なことができるのはせいぜい1話か2話程度で、いきなり物語を動かすという作品が多いですよね。

    花田  そうですね。キャラの仕込みをやりながら、多少足りていない状態でもぐぐっと話を走らせなければ間に合わないところが1クール物のシリーズにはあって。それが長いシリーズを書かれてきた方には窮屈というか、つまらないんでしょうね。厳密に言うと間違ってますからね。

  • ──シリーズ構成に何かノウハウのようなものはありますか。

    花田  特にどうこうというのはないのですが、これも時代だと思うのですが、当時、僕の先輩方というのは原作物にしてもオリジナルにしても、1クールのシリーズ構成にあまり慣れていないという印象がありました。こんなに皆さんシナリオが上手なのに、1クールの場合、それでは展開が間に合わない、そんなにキャラクターを沢山出して壮大な世界観を語っている暇なんてない、という構成や企画が多かったんです。どんどんポイントを絞らなきゃいけないのに、監督と一緒にますます面白い方に膨らませていってしまう。それに対して1クール物ばかりやっていた自分は、自然と1クールの展開に必要な分量が身についてしまった感覚はありましたね。だから逆に今でも長いシリーズをやれと言われたらできないですから。

  • ──シリーズ構成はいつ頃からやっていたのですか。かなり早かったのでしょうか。

    花田  早かったですね。確か脚本家としてデビューしてから二、三年でやったと思います。ただ、それもガイナックスさんで、ある程度形にしてくれたら後はこちらで作るという感じだったんです。最初にやったのは『まほろまてぃっく〜もっと美しいもの〜』(2002-03)だったのですが、その時に山賀(博之)さんから言われたのは(花田氏がシリーズ構成を担当したのは第二期で第一期は山賀氏が担当)、とりあえず10話まで作ってくれたらいい、後はオレがやるからと(笑)。まあ、普通のベテランライターさんだったらこれは降りるだろうなというオーダーで、要は、まだ何も考えていないから時間稼ぎ的な仕事をしてくれということだったんです。ですから、僕が書いた構成に対しても特に直しが入るわけではなく、仕事としてはとにかくここまで原作通りやってくれというので、その通りやった感じでした。当然、自分がシリーズ構成という感覚はなかったですし、シリーズ構成費もさすがにこの仕事ではもらえないなと思ったので、最終的に要らないですと言った記憶があります。

     その後、シリーズ構成としては二作目の『ぷちぷりユーシィ』(2002-03)をやらせていただきました。この作品はキャラクターの設定はあったものの、構成からオリジナルで、ほぼ好きに書かせてもらいました。二作目にいきなりオリジナルというのはびっくりでしたが、今考えると『アベノ橋』と『まほろまてぃっく』がお手伝いに近かったので、『ぷちぷりユーシィ』は、色々ありがとう、お礼にこの作品は好きに書いていいです、的なニュアンスがあったのかもしれません。これは自分の原点となってる作品と言えると思います。

  • 他のライターより圧倒的に有利な点って、先輩を見ていられたってことなんですよ。売れっ子ライターでもこのくらいは遊ぶんだなとか、売れっ子ライターでもこんなふうに失敗したり、落ち込んだりするんだなとか。こんなトラブルがあるのかという話なども聞き、客観的に横から見ていられた。だから、フリーで仕事するようになって、自分が当事者として似たようなことになった時に、「あの時先輩はああしていたな」「あの時こうやってあの先輩は失敗していたな」と参考になる記憶が沢山あるから、初めてのアクシデントが起きたりしても、意外と冷静に対処できていた気がします。

  • ──ガイナックスは脚本を変えてしまうことに関しては筆頭みたいなスタジオですよね。そういったアニメのシナリオが置かれている立場については、仕事を始める前からご存じでしたか。

    花田  聞いてはいましたけど、自分は駆けだしの新人ですからね。文句どころか、「勉強させていただきます」みたいな感じでした。コンテの人はみんな自分がファンだった頃の有名人ばかりですから。「きゃー凄いー」みたいな完全なアニメファン目線でしたね。

     あと、そういうことに関して言えば、ぶらざあのっぽにいた時に先輩たちから現場の話をよく聞いていて、先輩たちの方がよっぽどひどい目に遭っているなという感覚があったんです。書いた脚本が一文字も使われなかったなんてこともしょっちゅうだったし、一頃はそれこそシナリオを使ったら負けみたいな雰囲気が演出家の間にあったという話も聞きますし、もっと荒々しい世界だったのかなとも思っています。