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花田  それは感じています。例えば映像は編集でテンポをどうするかということを判断する人が多いですよね。新海(誠)さんの映画を観ていてもそこを徹底的にやっていて、音楽が流れるシーンなんか、気持ち良さをドンと出すためにそれこそ一コマ一コマぐらいまでギリギリ詰めて音と映像の流れを完全にシンクロさせていますよね。一般の人も動画編集を行う時代になり、普通の人もその編集によってシンクロするカタルシスを感じることが多くなったので、ああいうものが非常に効果的になったんだと思うんですけど、それを先んじて捉えてる感覚はすごいなと思います。

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花田  いずれは出てくるでしょうね。特に若い人は本当に抵抗感がなくなってきてますから、当然アニメも変わってくると思います。それだけでなく、今はスマホ一台で映画一本撮れてしまうとか、特に若い世代はドラマよりもTikTokをずーっと観ているとか、映像を取り巻く環境も全然変わってきていて、そういう世代が作る将来的なアニメはきっと自分たちが作っているものとは全然違うものになっているんだろうなという感覚はあります。もしかしたらシナリオも台詞のロジックが必要なくなるかもしれません。

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──なぜ日常会話を書いていたいと思うのでしょうか?

花田  多分なんですけど、日常がその人の一番の個性が出ると思うんですよ。例えば拳銃突きつけられればみんな怖いだろうし、ゴール前にボールがあがればシュート決めたいだろうし、恋をすれば相手と一緒にいたいって思うし、宇宙空間に飛び出せばその広さに感動する。それって大抵の人がみんなそうだと思うんです。でも、日常って人によって反応が千差万別じゃないですか。着飾ってないその人の本来の姿。寝起きだったり、今日何食べるかなあ、とか、うわ、牛乳買い忘れたー。とか。人間を見ている時に、そうやって暮らしている場面の方がその人のダメなところを考えられて、愛しく思えるんです。

 昔、『やっぱり猫が好き』(1988-91)ってドラマがあって、幕張に住んでる三姉妹がマンションの一室で喋っているだけの内容だったんですけど、それで東京にゴジラみたいな怪獣が現れたって回があったんですよ。三姉妹はテレビのニュースでその様子をずっと見ているんですけど、怪獣がどこから来たかとか、どんな怪獣なのかとか、「逃げなきゃ」とかじゃなくて、テレビのテロップで〈京葉線運転取りやめ〉って出たのを見て「やったー会社休みだー」って喜ぶ。そのシーンを見て、自分が書きたいのは人間のこういうところだって思いました。だから怪獣が出てくる話でも『ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉』(2021)みたいな作品はひっくり返っても書けない。そこははっきりしてますね。

 以前『けいおん!』(2009-10)という作品で各話ライターとして書かせてもらった時、原作が足りない、でも話を勝手に進めることもできないという状況で、特にキャラクターが成長するわけでもなく、大きな事件やイベントが起きるわけでもない、日常がただ過ぎていくみたいな話を沢山書く必要が出てきた。その時は、本当に楽しくて。学校の部室を掃除するだけで一話書くみたいなオーダーだったんですけど、自分からしたら願ったり叶ったりでしたね。時代がそういう方に段々と動いていたんでしょうね。合わせたというか自分の好みと時代が偶然合ったんだと思います。ラッキーでした。

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──花田さん自身がやりたい方向性というのはどういうものなのですか。

花田  色々ありますけど、方向性としては宇宙に飛び出すとかファンタジー系ではないと思います。それよりは現実世界で、のんびりした日常みたいな作品を書いていたいという想いがあります。よくプロデューサーにも同じ質問をされますが、究極は「女の子が30分友達と蕎麦打ってるだけのアニメか、中学生男子が毎週毎週エッチがしたいって友達と愚痴ってるだけのアニメ」って答えるようにしています。大抵のプロデューサーは渋い顔しますけどね(笑)。日常会話を書いていたいんですよ。例えば『天空の城ラピュタ』だったら「人がゴミのようだ」じゃなくて「肉団子二つ入れて」って台詞。ああいうのをずっと書いていたい。『ラブライブ!』でも、犬を拾ってきたりとか、ダイエットしている、みたいな話ばかり実は書いていたいんですけど、残念ながらお客さんはそれを良しとはしてくれないので(笑)。

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──『宇宙よりも遠い場所』のPCを見る場面は、背後で見ている三人も含めて台詞ではなくほとんど状況だけで見せるシーンとなっていますが、あそこもト書きはあまり書いていないのですか。

花田  多少は書いていますが、監督のいしづか(あつこ)さんに以前、「花田さんがシナリオを書いていて、頭の中に情景が浮かんでいる時はト書きがなくても頭の中にコンテが浮かぶけれども、花田さんが浮かんでないまま書いている時は全く浮かびません」と言われたことがあって。ト書きがなくても、こっちがちゃんと場面を思い浮かべながら台詞を書くと、そこは演出家ですから、どんな場面か想像がつくんだなと。でも、こっちが画を思い浮かべないままお任せで単に台詞だけで書いてしまうと、言葉の羅列になってしまう。だから、ト書きをきっちり書くか書かないかではなく、頭の中できちんとそのシーンを画として思い浮かべて書いているかどうか、台詞が音として頭の中で響いているかが大事なのだなと思いました。

──報瀬が膝を抱えてブツブツ言い、それに茶々を入れるシーンなんかは、雰囲気を想像しないとああいったやり取りは出てこないですよね。

花田  ブツブツ言うシーンなんかは、あのテンポで書きたいから、ト書きを書かないということはありますね。間に情景描写が入ると、他人が読んだ時に、自分が伝えたいテンポにならない感じがするんです。だから、箱書きではないですが、速いテンポで書きたいときはどうしても台詞だけで書くということになって、もし必要な場合は後でト書きを流し入れるということになります。

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──『宇宙よりも遠い場所』は、どういうところからスタートされたのですか。これは志の高い作品だなと思いました。よく企画が通りましたね。

花田  あれは、僕的にはもうかれこれ十何年もアニメの脚本をやっているのだから、一回くらい好きにやらせてほしいという想いで出したものだったんです。もちろん、最大限お客さんに見やすく作るということは考えましたが、そういう意味ではちょうど良かったというか、気持ちが乗っていた作品でしたね。

──本当は26本作りたかったのではないですか。

花田  続きを作りますかという話もあったのですが、まあ、きれいに終わったので、あれはあれで良かったかなと。確かに26本で書こうと思えば書けたかもしれませんが、多分あれくらいの方が想像の余地もあっていいかなという気もしますし。

──キャラクターはすんなり決まったのですか。

花田  キャラクターは、僕の中では見えていたので、さっき言った主人公をどうするかということ以外はスムーズに決まりました。シリーズの中で書けなかったところと言うと、南極へ行くまでの訓練が書けなかったところです。本当は訓練のリアリティーを上げるという意味でももっと色々と積まなくてはいけなかったですし、物語的にもそこで苦労する描写がないとススッといってしまう感じになるだろうなとは思ったのですが、話数が足りなくて描ききれませんでした。

──ちなみに、ト書きは詳しく書く方ですか。

花田  ト書きはあまり書きません。そこは、演出や絵コンテの方に任せますという感じで、基本的には台詞中心で書きます。

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──スクールアイドルというアイデアに関しては、どう思われていたんですか。

花田  素晴らしいな、と思っていました。アニメ界でアイドル物は流行らないという定説があって、『ラブライブ!』の前に『アイドルマスター XENOGLOSSIA』(2007)という作品を書かせてもらった時も、プロデューサーに「アニメとアイドル物は合わない」という話をされました。確かに、それは正しい部分もあって、普通にアイドル物でちゃんとドラマを作ろうとするとどうしても芸能界が出てきてしまうので、話が生々しくなるんですよ。芸能事務所がどうだとか、売上が、スキャンダルが、とか。しかもそこを描くと、どうしても大人が絡んでくる。現実のアイドルって実は大人の世界に少女が振り回される物語なんですよ。正面から作ると、明るい華やかな表舞台に対して、暗く辛い裏舞台、みたいな話にどうしてもなってしまう。でも、そこにスクールと枠をつけることで、大人の芸能界の世界を無視して、女の子が主人公でかつアイドルを語ることができるようにした。良いアイデアだと思います。

 ただ、後になって『ゾンビランドサガ』(2018)というゾンビの女の子がアイドルになるというアニメを観て、素晴らしいと思いましたね。悪徳マネージャーも、芸能界のドロドロも普通に描いて、逆にアイドル側をゾンビというファンタジーに振ることで作品を生々しいところから遠ざける。僕からすると逆転の発想で、『ラブライブ!』のプロデューサーと「あれは発明だよね、面白いよねえ」と話していました。

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──今は複数の登場人物で構成するドラマが主流になっていて、実際、この作品もメインの四人で話が作られていますよね。

花田  そこは特にアニメの場合、キャラクター関係は三角形から出発し、その後徐々に増やしていくという考えが僕のベースにあるんです。佐藤順一さんがやった『美少女戦士セーラームーン』(1992-1997)も最初は三人から始まって、そこから人数が増えていきますよね。『おジャ魔女どれみ』(1999-2003)なんかもその流れでずっときていて、僕は意外とそのスタンダードは正しいと思っているんです。それで『宇宙よりも遠い場所』もああいった関係性で作りました。

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──ということは、主人公はキマリではなく報瀬だったのですか。

花田  そうです。最初は報瀬でした。ただ、監督から「報瀬が主人公だと話が重くなり過ぎる」と言われまして。あと、彼女が主人公だと彼女の話にしかならない、だから主人公の横にいる子にした方がいいんじゃないという意見もあって、それであの形になったんです。それに関しては、僕は今も素晴らしい意見だったなと思っています。

──よくベテランのライターは「主人公は成長しなければならない」ということを言いますが、そういう視点で見ると、やっぱり主人公は途中で髪を切る報瀬なんですよね。

花田  そうなんです。逆にキマリは最後まで目に見えて分かるような成長はない。変わるのは親友のめぐみなわけで、そういう意味では結構傍観者なんですよね。キャストの水瀬さんも「私、印象的な台詞がない」と仰っていましたけど、ただ、そういう周囲の状況を客観視する人物の方が、この後色んなものを見てきっと大きく成長していくんだろうなと思わせることができる。その主人公にとってのここから始まる感は作品のラストに前向きに明るさを残してくれた気がします。

──そういうことで言うと、特に人物の捉え方なんかは新しい感覚ということになるんでしょうね。主人公は成長しなければならないという方程式で考える人はなかなかそういう物語は書けませんから。

花田  僕も最初に報瀬を主人公として考えたのは、そういう方程式からだったんです。一番ドラマがあるのはこの子だからという考え方で書くと彼女を主人公にするのが自然ですから。でも、お客さんの目線で考えると、脇にいて客観的に見ている人を自分に重ねるという人が今は多くなっている気もしたんです。それも時代的なところが大きいのかなと思いましたが。

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──『トム・ソーヤー』でいうと、インジャン・ジョーの裁判の話では思い切って証言をするトムの恐怖感や気持ちの高まりが台詞と演技の二つでとても印象的に表現されていて。それと同じような表現が『宇宙よりも遠い場所』の母が残したPCで自分のメッセージを見るシーンでも感じられたのですが。

花田  そこは特に意識はしていませんでしたが、でも、『トム・ソーヤー』の裁判シーンのように台詞以外で表現するというのは本当に理想です。先に話したように『ラブライブ!』みたいな作品ではやらないと自分で決めていたので、その反動もあって、『宇宙よりも遠い場所』では逆にそういうシーンをやろうという意識は最初からありましたね。だからPCに残されたメッセージを見て泣き出すシーンも、最初から台詞は無しと決めていたシーンでした。

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